未来の体育
体育ICT
研究会
体育ICT研究会は、Society5.0時代を支える革新的かつ真正の体育を探求している研究チームです。
全国の学校現場の教員や大学の研究者、企業など60名以上のメンバーが10の部会で活動を行っています。
今後学校教育の中でICT機器はより一般的なツールとして利活用されていく可能性があると考え、未来の体育を支えるツールとしてICT機器を効果的に利活用する方法を探求しています。
1. Polarを活用いただいている施設・チーム名を教えてください。
体育ICT研究会(会長:大熊誠二<東京国際大学・専任講師>/ 研究推進委員長:鈴木直樹<東京学芸大学・准教授>)に所属する学校教員が活用して実践研究に取り組んでいます。
主に小中高等学校で活用しています。令和3・4年度に活用した学校と教員は、新潟市立沼垂小学校(熊野教諭)、新潟市立亀田東小学校(本間教諭)、江戸川区立新田小学校(石井主幹教諭 *令和3年当時:現在は宇都宮大学助教)、福山市立藤江小学校(飯塚教諭・藤原教諭)、広島県坂町立横浜小学校(野村教諭)です。
また、東京学芸大学の小学校体育の教材研究と関連する授業(担当:鈴木直樹)で大学生に活用させて、小学校体育での活用方法について学ぶようにしています。
2. 実際にどのようにPolar のデバイス・サービスを活用していますか?
小学校で長い距離を走る運動は、「一定の速さでのかけ足」(低中学年)「無理のない速さで5- 6分程度の持久走」(高学年)が例示されています。
しかし実際には、タイムや周回などの記録や順位を指標にした活動が行われていることが多かったように思います。そのような状況を改善するために、「心拍数」を指標にして最大心拍数の70-80%の心拍数を持久力が高まる「無理のない速さ(少しきつい速さ)」として設定し、それが大きく変動しないように走り続けることができる活動を行うことを目標とした授業を実践しています。
そのために、「①自分たちが無理のない走りと思って走った際の心拍数の変動を、走った後に振り返り」、「②リアルタイムで心拍数の変動を見ながら走りを調整し」、「③グラフ表示を確認して仲間と走り方の改善を話し合い」、「④最終的には心拍モニターを見ながらではなく、無理のない持久走を自らの感覚で調整して走ることができるようにする」というようなプロセスを、単元を通して行っています。クラス全体で情報を共有して学習を行う際には、Polar Teamを、ペア学習を行う際にはPolar Beatを活用して実践を行っています。
3 . Polar のデバイス・サービスを導入して頂いたきっかけ・理由を教えてください。
2008年に鈴木が客員研究員としてニューヨーク州立大学を訪問していた際に、米国の学会でDr. Dave Swaim と出会いました。
彼女から心拍センサーを集団で活用する方法と利点を聞き、その活用に大変興味を持ち、2010年頃に彼女に東京学芸大学で心拍数を活用したワークショップを実施してもらいました。その取り組みを見て、日本の学校教育に導入できると感じ、以後、胸心拍センサーを使って取り組みを展開してきました。
2019年からは体育ICT研究会が発足し、その中で心拍センサーを使った実践に関して評価方法を工夫して実施してきました。2022年度からは、Polar Verity Sense(腕心拍センサー)を使用するようになり、より手軽に実施ができるようになりました。
4. Polar のデバイス・サービスを活用しての感想と感じている効果・利点を教えてください。
実際に使用した教員からの感想は下記になります。
・心拍数を色で可視化することで、自分のペースを客観視することができる。
・適切な走るペースを子供が理解できることに加えて、その数値を元に協働的な学びを展開できる。
・自分の体の様子を可視化できること。「だから息が苦しいんだ」「だから気持ちよく走れるんだ」と児童が思考し、自分で改善するきっかけとなるところが良い。
・簡単な装着と数値による明確な心拍数の表示により、誰でも自分の身体の動きに気付くことができる点が効果的だと感じた。
・これまで順位にしか価値を見出せなかった子どもたちが、「ペースの一定さ」や「ねらったゾーンでの継続」などの、価値に気づくことができた。
・不人気No.1だった持久走が、自分の体と対話しながら変化に気付ける人気種目になる可能性を感じた実践となった。
5.実際に使用されている方(生徒、学生等)からの評判はいかがですか?
<使用した教員養成課程の大学生の感想>
・ハートレートモニターを用いながら持久走を行った。自分の心拍数を「見える」化することによって、今までなんとなくしかイメージ出来ていなかった「ちょうどいい走り」を、より具体的なものとして捉えることができるようになったと感じた。
・これまで受けてきた持久走の授業は、タイムを競ったり、距離を競ったりというように、他の人と競い合いながら、自分の限界に挑戦するようなきついものだった。今回は、心拍数を適切な範囲内に一定に保つことを目指すもので、他の人を意識せず、自分のペースで走ることができ、また、きつさも少ないので、苦手意識を持ちにくくなるのではないかと思った。
・心拍数を上げすぎないというのが意外と難しいと感じた。持久走に対するイメージとして、自分が今までに受けてきた授業での経験から、「自分の限界に挑戦する」というイメージが強く、頑張りすぎてしまうところがあったので、楽しみながら持久力をつけるということを大切にしたいと思った。持久走はつらくなりがちだが、今回のような機器を用いることで自分の走りが振り返りやすくなる点はとても良いと思った。
<使用した子供達からの感想>
これまで、大嫌いだった持久走がとても楽しく感じた、という記述が多く見られました。
・ぼくにとって一番気持ちよい運動ゾーンは緑ゾーンでした。心拍数を見ながら運動すると不思議と苦しくなく、楽しかったです。
・声をかけてもらって、スピードを落とした。走るのが楽だった。
・人と並んで走っていても、心拍数に表れる%は全然違った。
・一定の心拍数を保つ運動は、思ったよりもゆっくりなペースで十分だった。
・タイムを上げることが大事だと思っていたけど、自分に合った運動を長く続けることが大切だと分かった。
・自分でコントロールして走るのは楽しいし、ずっと続けられる。
・自分にあった運動で体力が高まるなんていい感じだ。
6.今後更にどのように活用していきたいと考えていますか?
・持久走だけでなく、保健の学習や理科の学習と絡めて活用していきたい。
・持久走だけでなく、ボールゲームや普段の生活などでも応用して活用していきたい。
・持久走の目標の持たせ方。苦手な児童こそ自分のペースで走ることに難しさを感じていると思われるので、自分のペースを掴ませるきっかけにしたい。
・持久走の学習指導モデルを確立させて、学校体育での心拍センサーの使用を普及させたい。
・より簡単に、より誰でも(体育を担当するどの教員でも)活用できるように、教育現場で実践していきたい。そのためにも、機器を用意する資金については課題となりそうである。